大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和33年(あ)1199号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人鍛治利一、同吉田賢三、同本田義男の上告趣意第一点について。

論旨は、原審において控訴趣意として主張、判断されていない事項に関する主張であるばかりでなく、原判決が是認した第一審判決が、その判示第一、(一)ないし(四)、(六)、(七)の各事実につき挙示する証拠によれば、右各事実は、判示熊本県漁業信用基金協会(以下「協会」という。)の事務局長および専務理事として判示の業務全般を管掌していた被告人が、前田晃ほか四名の依頼などにより、自己の保管する協会所有の判示各現金を勝手に同人らに対し、その事業資金などとして、貸与したことをうかがうことができるから(被告人の検察官に対する供述調書記録六七九丁以下には「私は悪いこととは思ったが、出資者が出資した金の中から現金十万円を前田に、同人の砂鉄鉱区の事業資金として貸与した旨」および被告人の検察官に対する供述調書記録六八六丁以下には「久富一郎、同人の母モモ、奥山光雄及び植野宣好に金を私の独断で、私の預っていた協会所有の現金や定期預金を金融して貸与した」旨の各記載がある。)本件は、被告人がその一般的権限をこえ、自己の計算において協会所有の金員を不法に処分した行為であると認めるのを相当とする。したがって、第一審判決が被告人の判示第一、(一)ないし(四)、(六)、(七)の所為につき業務上横領罪の成立を認めたのは正当であり、同判決を維持した原判決には何ら違法はないから、所論判例は本件に適切でなく、所論判例違反の主張は採用できない。

同第二点について。

論旨中、憲法三一条違反をいう点の実質は、結局単なる法令違反の主張に帰し、また、判例違反をいう点は、所論判例は事案を異にし本件に適切でないから、上告適法の理由にならない(なお、背任罪における財産上の損害を加えたるときとは、財産上の実害を発生させた場合だけではなく、財産上の実害発生の危険を生じさせた場合をも包含するものであるところ〔昭和一三年(れ)九二九号同年一〇月二五日大審院第三刑事部判決、刑集一七巻七三五頁〕、本件第一審判決が、その判示第二事実において判示するがごとき協会所有の定期預金債権証書につき質権を設定し、これを質権者に交付するときは、その行為が協会の業務の範囲外であって、法律上無効であるとしても、協会をして定期預金債権の回収を不能ならしめる危険があるから、財産上の損害がないものということはできない。それゆえ、論旨摘示の原判示は、相当である。)。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例